名古屋地方裁判所 平成3年(ワ)1838号 判決 1993年6月11日
原告
株式会社ライフ
右代表者代表取締役
秋山修二郎
原告
曽我建設株式会社
右代表者代表取締役
曽我四一
右両名訴訟代理人弁護士
岡本弘
同
中根正義
被告
甲野春子
右訴訟代理人弁護士
村田武茂
同
原田彰好
同
谷口優
主文
一 原告株式会社ライフの請求をいずれも棄却する。
二 被告は、原告曽我建設株式会社に対し、金一七二五万円及びこれに対する平成三年七月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は、被告に生じた費用の二分の一と原告株式会社ライフに生じた費用を同原告の負担とし、被告に生じたその余の費用と原告曽我建設株式会社に生じた費用を被告の負担とする。
四 この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一原告株式会社ライフの請求
1 (主位的請求)
被告は、原告株式会社ライフ(以下「原告ライフ」という。)に対し、金三五一万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成三年七月六日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 (予備的請求)
被告は、原告ライフに対し、金六六〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成三年七月六日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二原告曽我建設株式会社の請求
1 (主位的請求)
被告は、原告曽我建設株式会社(以下「原告曽我建設」という。)に対し、金一七二五万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成三年七月六日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 (予備的請求)
被告は、原告曽我建設に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成三年七月六日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一争いのない事実
1 原告ライフは、愛知県知事の許可を受けて宅地建物取引業を営む者である。
2 原告曽我建設は、建築工事の請負、不動産売買等を業とする者である。
3 原告曽我建設は、被告に対し、平成二年六月一一日、原告ライフの仲介により、別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)及び同地上に建築予定の別紙物件目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)を代金一億一五〇〇万円(手付金五七五万円)で売り渡す旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、売買契約書を作成した(なお、売買契約書上の建物の表示は、木造二階建一部RC造、地下一階33.61平方メートル、一階30.78平方メートル、二階30.78平方メートル)。そして、被告は、原告曽我建設に対し、同日までに、手付金五七五万円を支払った。
4 本件建物は、平成三年二月八日ころ完成し、同月一四日、被告を所有者とする表示の登記がされた。
5 原告曽我建設は、同月二五日、本件土地建物を被告に引き渡し、残代金の決済をする約定であったが、被告が受渡しの場所に現れず、残代金の支払いもしなかったことから、本件土地建物の受渡しをすることができなかった。
6 原告曽我建設は、同年三月一一日、谷口優弁護士(名古屋弁護士会所属。以下「谷口弁護士」という。)を立会人として、被告との間で、「本件売買契約を合意解除する。被告は手付金五七五万円の返還請求権を放棄する」旨の示談書を取り交わした。
二原告ライフの主張
1 主位的請求〔媒介報酬請求〕
(1) 原告ライフは、被告から、平成二年二月ころ、代金一億円くらいのマンションの購入の仲介を依頼されていたところ、希望のマンションを探しあてることができなかったことなどから、本件土地建物の購入を被告に勧めたものである。したがって、同原告は、被告の委託を受けて本件売買契約をしたものである。
(2) 原告ライフの媒介行為によって、原告曽我建設と被告との間に本件土地建物についての本件売買契約が締結され、売買契約書が作成された。
(3) よって、被告は、原告ライフに対し、媒介報酬金三五一万円を支払う義務がある。
(計算式)115,000,000×0.03+60,000=3,510,000
2 予備的請求〔不法行為に基づく損害賠償請求〕
(1) 原告ライフは、原告曽我建設から、平成二年五月ころ、本件土地建物を販売するために必要な諸業務の委託を受け、その契約において、「本件土地建物の引渡完了時に、本件土地建物の販売価格の六パーセントの委託手数料を支払う。なお、原告曽我建設又は買主の都合で売買契約が解除されたときでも、原告ライフに委託手数料を支払うものとする。ただし、買主が違約したにもかかわらず、違約金を支払わなかったときはこの限りではない」旨の合意をした。
(2) 原告ライフの媒介行為によって、原告曽我建設と被告との間に本件土地建物についての本件売買契約が締結され、売買契約書が作成された。
(3) 被告は、八歳年下で妻子のある訴外乙野太郎(以下「乙野」という。)と不倫関係を続けていたところ、同人に貸し付けた約五〇〇〇万円を回収する目的で、代金一億円くらいのマンションを購入し、その資金を同人に出捐させようと企てた。そして、被告は、資金計画を全く立てず、かつ、右事実を秘したまま、代金一億円くらいのマンションの媒介を原告ライフに依頼し、「ザ・シーン徳川の募集に応募したが落選した」などと虚偽の事実を申し向け、高級乗用車に乗ったり、高価な装身具を身に着けるなどして、同原告を信用させて、媒介行為をさせ、原告曽我建設との間で本件売買契約を締結させるに至った。
(4) 被告は、乙野が自己の思惑どおり一億円を工面しないとわかると、何ら正当な事由がないのに、売買契約上の義務を全く履行しなかった。このため、原告ライフは、原告曽我建設から支払われるべき六六〇万円の委託手数料の請求権を喪失するに至った。
(5) よって、被告は、原告ライフに対し、不法行為に基づく損害賠償として、金六六〇万円を支払う義務がある。
三原告曽我建設の主張
1 主位的請求〔違約金請求〕
(1) 原告曽我建設と被告とは、平成二年六月一一日、本件売買契約を締結し、その中で、「被告の債務不履行のとき、又は、被告の都合で合意解除したときは、原告曽我建設は手付金を違約金として取得する。ただし、契約の履行に着手後は、被告は、違約金として売買代金の二割を支払う」旨の合意をした。
(2) 原告曽我建設と被告とは、平成三年一月一一日、本件土地建物の引渡及び残代金の決済を同年二月二五日に行うことに合意した。
(3) 原告曽我建設は、同日までに本件建物を完成させ、同月一四日には本件建物について被告を所有者とする表示の登記を経由したが、被告は、右二月二五日に本件土地建物の残代金を支払わなかった。
(4) 原告曽我建設は、同月二八日から同年三月一一日までの間に、被告又は被告代理人谷口弁護士に対し、債務不履行(代金不払い)を理由に解除の意思表示をした。
(5) 仮に(4)の事実が認められないとしても、原告曽我建設は、被告代理人谷口弁護士から、同月四日ころ、本件売買契約について、自己都合による解約の申し出を受け、そのころ、これを承諾した。
(6) よって、被告は、原告曽我建設に対し、違約金一七二五万円を支払う義務がある。
(計算式)115,000,000×0.2−5,750,000=17,250,000
なお、後記四(被告の主張)3(1)の「示談」は、原告曽我建設の窮状に乗じてされた被告に不当な利益を得させる合意であって、公序良俗に反し無効である。仮に、無効でないとしても、右示談のされるに至った経緯に照らし、被告が右合意を主張して違約金の支払いを拒絶することは信義則上許されない。
2 予備的請求〔不法行為に基づく損害賠償請求〕
(1) 原告曽我建設は、本件土地上に本件建物を建築して分譲販売することを企て、平成二年五月一七日、訴外株式会社名古屋銀行から本件土地の購入資金として六〇〇〇万円を年利7.125パーセントの約定で借り受け、同日本件土地を訴外中山孝夫から購入した。
(2) 原告曽我建設は、被告との間で、同年六月一一日、本件売買契約を締結した。
(3) 被告は、乙野と不倫関係を続けていたところ、同人に貸し付けた約五〇〇〇万円を回収する目的で、代金一億円くらいのマンションを購入し、その資金を同人に出させようと企てた。そして、被告は、資金計画を全く立てず、右事実を秘したまま、代金一億円くらいのマンションの媒介を原告ライフに依頼し、「ザ・シーン徳川の募集に応募したが落選した」などと虚偽の事実を申し向け、高級乗用車に乗ったり、高価な装身具を身に着けるなどして、同原告及び原告曽我建設を信用させ、原告曽我建設との間で本件売買契約を締結するに至った。
(4) 被告は、乙野が自己の思惑どおり一億円を工面しないとわかると、何ら正当な事由がないのに、売買契約上の義務を全く履行しなかった。このため、原告曽我建設は、前記(1)の金利負担(一か月金五〇〇万円)が増大するに至った。
(5) よって、被告は、原告曽我建設に対し、不法行為に基づく損害賠償として、金利負担の増大分の内金一〇〇〇万円を支払う義務がある。
四被告の主張
1 原告らの訴えの変更について
原告ライフは、当初、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求として、金八五五万円の支払いを請求し、原告曽我建設は、当初、不法行為に基づく損害賠償請求として、金三〇〇万円の支払いを請求していたところ、第一一回口頭弁論において、前記二及び三のとおり、原告ライフにおいては、金三一五万円の媒介報酬請求を主位的請求とし、原告曽我建設においては、金一七二五万円の違約金請求を主位的請求とする旨の訴えの変更をするに至ったものであるが、原告らの右訴えの変更は、いずれも請求の基礎に同一性がないので許されない。
2 原告ライフの主張について
(1) 被告は、原告ライフに対し、本件土地建物売買契約の媒介を委託していない。
(2) 原告ライフは、本件建物について、建築基準法に違反する建物を建築・売買する旨の合意を原告曽我建設と被告との間でさせ、その結果、本件売買契約は合意解除されるに至った。したがって、原告ライフが被告に対し、媒介報酬を請求することは信義則上許されない。
(3) 不法行為の主張については争う。
3 原告曽我建設の主張について
(1) 被告と原告曽我建設とは、平成三年三月一一日、①本件売買契約を合意解除する、②被告が手付金五七五万円の返還請求権を放棄する、③同原告と被告との間には他に債権債務関係はないことを確認する旨の示談をした。よって、被告が、同原告に対し、違約金一七二五万円の支払い義務を負うことはない。
(2) 不法行為の主張については争う。
第三当裁判所の判断
一訴えの変更の許否について
原告らの訴えの変更の経緯は、被告の主張するとおりであるけれども、原告らの変更前の各請求と、変更後の各主位的請求との間には、請求の基礎の変更はない。
よって、原告らの訴えの変更は許されないという被告の主張は失当である。
二証拠(証人築山卓佳、原告ライフ代表者本人、被告本人、<書証番号略>)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認定することができる。
1 原告曽我建設は、原告ライフに対し、平成二年五月二三日、本件土地及び同地上に原告曽我建設の建築する予定の本件建物の販売業務を委託した(なお、販売提携契約書上の建物の表示は、地下一階RC造ノ上木造カラーベスト葺二階建、建築面積33.61平方メートル、延床面積95.17平方メートル)。委託手数料については、本件土地建物販売価格の一〇〇分の六相当額とし、本件土地建物引渡完了時に請求できるものとされ、買主が違約したにもかかわらず違約金を支払わなかったときを除き、原告曽我建設又は買主の都合で売買契約が解除されたときでも委託手数料を支払う旨の合意がされた。
2 被告は、原告曽我建設に対し、同月二四日、本件土地及び同地上に建築予定の本件建物を代金一億一五〇〇万円で購入する旨の申込みをした。
3 原告曽我建設と被告とは、同年六月一一日、原告ライフの仲介により、本件土地及び同地上に建築予定の本件建物を次の約定で売買する旨の契約をし、売買契約書を作成した(なお、売買契約書上の建物の表示は、木造二階建一部RC造、地下一階33.61平方メートル、一階30.78平方メートル、二階30.78平方メートル)。
売買代金 一億一五〇〇万円
手付金 五七五万円
物件引渡日 同年一二月一〇日
違約金 被告の債務不履行により契約解除されたとき、又は、被告の都合で合意解除されたときは、手付金を違約金とし、契約履行に着手後は売買代金の二割を違約金とする。
4 本件建物はもともと建築基準法上の建ぺい率一杯に建てることを予定されていたものであるところ、被告が本件建物の床面積を広くすることを強く希望したことから、原告曽我建設、原告ライフ及び被告は、同年六月一一日、右売買契約書とは別に覚書を交わし、①本件建物の現実の面積(売買対象面積)を右売買契約書記載の面積より広くすること(地下34.08平方メートル、一階34.60平方メートル、二階34.60平方メートル)、②本件建物について建築確認通知書に基づく検査済証の交付が行われないこと、③行政指導等によって建築面積が確保されないときは原告ら及び被告において協議することなどを合意した。
5 原告曽我建設は、右合意に基づき本件建物の建築工事を始めたところ、同年八月九日ころ、名古屋市から違法建築であるとして工事の中止を命ぜられた。
6 原告曽我建設は、建築基準法に適合した建物を作る旨の書面を作成して名古屋市に提出し、同年九月三日ころから工事を再開したものの、当初の受渡期日までに竣工が間に合わないこととなったことから、被告との間で、同年一一月一九日、本件建物の引渡、所有権移転登記手続及び残代金の支払い期日を平成三年二月一〇日とする旨の覚書を交わした。
7 原告曽我建設と被告は、同年一月一一日、①売買代金を一億一〇〇〇万円とすること、②同原告は、同年二月二五日、被告に建築確認面積で本件建物を引き渡すこと、③本件建物について、建築確認面積で名古屋市の検査済証の交付を受けること、④本件建物の所有権移転登記後、同原告の責任で、本件建物を当初の覚書の面積を確保するよう増築すること、⑤増築後、被告は同原告に対し、五〇〇万円を工事代金として支払うこと、⑥本件建物の増築完了引渡を同年三月一五日までとすることを確認し、確認書を交わした(原告ライフも立会業者として記名捺印している。)。
8 原告曽我建設は、同年二月一四日、本件建物を建築確認面積(なお、同年一月二二日、別紙物件目録二記載のとおりの面積で名古屋市建築主事の建築確認を受けた。)で完成し、名古屋市建築主事の検査済証を受けた。そして、原告らは、被告に速やかに権利の登記をさせるため、被告を所有者とする表示の登記をすることとし、右二月一四日付けで原告曽我建設から被告への譲渡証明書を作成し、同日、名古屋法務局昭和出張所に対し被告名義で建物の表示の登記申請をし、その旨の登記を了した。
9 原告ライフ代表取締役秋山修二郎と原告曽我建設取締役築山卓佳(以下「築山」という。)は、同月二五日、被告が受渡の場所である原告ライフの事務所を約束の時間に訪問せず、残代金の支払いをしなかったことなどから、被告代理人の谷口弁護士と連絡を取り合い、同月二八日、同弁護士の事務所を訪問し、本件売買契約を解約した場合の処置などについて話し合った。その際、築山らは、違約金として一七二五万円の支払いを求め、「本件建物は、被告名義に表示登記されており、このままでは他に売却できないので、借入金利もかさむことから、早急に結論を出し、表示登記の抹消をしてほしい」旨申し出た。また、谷口弁護士は、「おたくの立場もよくわかるので、三月一日ないし四日のうちに結論を出しましょう」などと答えた。
10 築山は、同月四日ころ、谷口弁護士から「結論として解約することになった」旨の申し出を受けて、これを了承した。そして、同弁護士から、「違約金として一七二五万円そろえることが出来ない。違約金の減額をしてもらいたい」旨の申し出を受けた。
11 築山は、同月七日ころ、谷口弁護士から「違約金は、よく出せても三〇〇万円くらいだろう」との申し出を受け、「表示登記の抹消を先に行い、違約金については後日結論を出したい」旨申し入れたが、同弁護士に断られ、三〇〇万円の違約金で承知する旨伝えた。
12 築山は、谷口弁護士の連絡を受けて、同月九日、同弁護士の事務所を訪問し、前記内容の示談をすることとしたが、被告が「印鑑証明を持って来なかった」ということで、再度同月一一日、同事務所で示談をする旨の約束をした。
13 築山は、同月一一日、谷口弁護士事務所で、同弁護士から「本人は三〇〇万円も払いたくないと言っている」「表示登記の抹消を先に済ませることはできない」などと言われ、表示の登記の抹消をしないことには本件土地建物を他に販売することができず、借入金の金利の負担ばかり増大することから、原告曽我建設代表取締役曽我四一とも相談の上、やむなく同弁護士の申し出を受け入れることとし、「本件売買契約を合意解除する。被告は手付金五七五万円の返還請求権を放棄する。原告曽我建設と被告間には、本示談書に定めるほか何らの債権債務のないことを確認する」旨の示談書を取り交わした。
14 被告は、同日、「被告を所有者とする表示の登記は錯誤によるものであり、表題部記載の所有者を原告曽我建設とする旨の更正登記を申請することを承諾する」旨の承諾書を作成し、原告曽我建設は、同年四月一日、表題部記載の所有者を同原告とする旨の更正登記の申請をし、同月二日、右登記が了された。
三原告ライフの媒介報酬請求について
1 証拠(原告ライフ代表者本人、被告本人)によれば、原告ライフが、被告から、代金一億円前後のマンションの購入の媒介を委託されたことは認められるものの、本件土地建物について購入の媒介を委託されたとの事実は認めることができない。
また、原告ライフが本件土地建物の購入を被告に勧めるに至った経緯等に照らすと、右マンション購入の媒介を委託されていたことをもって、本件土地建物の購入についても媒介の委託があったものと解することは相当でない。
2 そして、前記二1認定のとおり、原告ライフが原告曽我建設から本件土地建物の販売業務の委託を受け、六パーセントの委託手数料の合意をしていたことなどに照らすと、原告ライフは、もっぱら原告曽我建設との販売業務委託契約に基づいて、同原告のために本件土地建物の売買契約の斡旋ないし媒介をしていたものと認められる。また、被告が原告ライフに対し報酬を支払うことについて同意したとの事実を認めるに足りる証拠もない。
そうすると、原告ライフが、客観的にみて被告のためにする意思をもって媒介行為をしたものと認めることはできないので、同原告が、被告に対し、商法五一二条に基づく報酬請求権を取得したと認めることはできない。
3 したがって、原告ライフの媒介報酬請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
四原告ライフの不法行為に基づく損害賠償請求について
1 被告が、本件土地建物の代金を支払う意思も能力も全くないまま、これを秘し、原告らを欺罔して、本件売買契約を締結するに至らしめたとの事実については、これを認めるに足りる証拠がない。
2 被告が、原告両名間の本件土地建物の販売提携契約(前記二1)の存在及びその内容を知っていたことを認めるに足りる証拠はなく、したがって、被告が、本件売買契約後、その債務を履行せず、契約解除後も違約金の支払いをしなかった(なお、前記二13認定のとおり、被告は違約金五七五万円は支払っている。)ことをもって、原告ライフの委託手数料請求権(前記二1参照)を侵害する不法行為とみる余地はないものといわざるを得ない。
3 したがって、原告ライフの不法行為に基づく損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
五原告曽我建設の違約金請求について
1 前記二10認定の事実に照らせば、平成三年三月四日ころ、原告曽我建設と被告との間で、本件売買契約を解除することについて合意が成立したものと認められる(なお、被告の債務不履行を理由として、原告曽我建設から被告に対し契約解除の意思表示をしたとの事実については、これを認めるに足りる証拠がない。)。
2 そうすると、被告は、原告曽我建設との間で本件売買契約を合意解除した同年三月四日ころ以降、同原告に対し、代金の二割(二三〇〇万円)の違約金から既払金五七五万円を控除した金一七二五万円を支払う義務及び表示の登記の更正登記(不動産登記法九三条の一〇、八一条の七参照)に協力する義務を負っていたというべきところ、前記二9から13までの事実及び証拠(証人築山卓佳、原告ライフ代表者本人、被告本人、<書証番号略>によれば、被告は、右違約金の支払いを免れるために、同原告が本件土地建物を他に売却できなければ、借入金の金利負担がかさみ、話し合いが長引けば長引くほど困難な状況に陥ることを認識しながら、右表示の登記の更正への協力(承諾書の作成)義務を履行せず、逆にこれを取引材料に用いて、既払金五七五万円を除き、違約金の支払いを全く免れる旨の合意(示談)を成立させるに至ったものと認定することができる。
3 以上の点に鑑みると、右示談が公序良俗に反する無効な合意であるといえないとしても、少なくとも、被告が、右示談をもって、違約金の支払いを拒絶することは信義則に照らし許されないというべきである(なお、前記二認定の事実に照らせば、原告曽我建設が違法建築を承諾して本件売買契約を交わしたこと、しかも、名古屋市から違法建築を指摘された後も、同市を欺く手段を講じ、被告との間で違法建築を完成させる旨の合意をしたことが、結局において、本件売買契約解除の一因となったものと窺われ、同原告は建築業、不動産取引業を営む者としてこの点厳しく咎められなければならないのはもちろんであるけれども、同原告が右のような契約を締結するなどしたのは、被告から違法建築となる床面積を確保することを強く求められ、これを受け入れたからであるということを考慮すると、同原告が被告に対し、右信義則違反の主張をすることも許容されるというべきである。)。
4 なお、証拠(証人築山卓佳、原告ライフ代表者本人、被告本人、<書証番号略>によれば、原告曽我建設は、前記三月四日ころの合意解除以後も、違約金一七二五万円の支払いを求めていたものと認められるので、被告は、そのころから右違約金の支払いについて遅滞に陥っていたものと認められる。
5 したがって、原告曽我建設の違約金請求は、付帯請求である遅延損害金の点を含め、理由がある。
六よって、原告ライフの請求はいずれも理由がないので棄却し、原告曽我建設の主位的請求は理由があるので認容することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官松並重雄)
(別紙)物件目録
一 名古屋市千種区徳川山町二丁目五八番の一
宅地 102.47平方メートル
二 名古屋市千種区徳川山町二丁目五八番地一
家屋番号五八番一
木・鉄筋コンクリート造スレート葺三階建居宅
床面積
一階 35.26平方メートル
二階 30.76平方メートル
三階 29.79平方メートル